モーツァルト。
いろいろメディアで取り上げられているのでご存じの方も多いかと思いますが、今年は"神童"モーツァルトの生誕250周年なんですね。彼がザルツブルクに産まれたのは1756年1月27日、ちょうど今日から250年前のできごとです。(ちなみにいつもお世話になってる?このひとも1月27日産まれ。おめでとうございます。)
さて、モーツァルトといえば晩年に書かれたクラリネットコンチェルトK.622が大変に有名。上品で優美な旋律はいかにもモーツァルトらしい色彩感を放っています。先だって書かれたクラリネット五重奏曲もステキな響きをもってますねー。多くのクラ吹きにとってモーツァルトというのは特別思い入れのある作曲家なんじゃないでしょうか。
ちなみにこの協奏曲は、記譜でLow C(実音A)まで出せる「バセットクラリネット」(「バセットホルン」とはベツモノ。これもモーツァルトが好んで使ったクラリネット族の楽器ですが)という特殊な管のために書かれており、通常のA管クラリネットでは出ない音域が使われています。このため、一昔前の音源には最低音域が含まれるフレーズをオクターブ上げたりして演奏した録音(※)が多く、この曲の魅力のひとつである低音域の旋律や大きな跳躍音なんかの効果が薄れてしまっていたのですが、その後クランポンやセルマーといったメーカーがバセットクラリネットを復刻したこともあり、最近の録音ではほとんど原曲どおりに聴くことができます。
4オクターブという広い音域を活かした技法、たとえば高音域で示した音形をすぐオクターブ下で、またさらにオクターブ下でと続けざまに反復したりといった表現が随所に現れており、まるでいろいろな音域の楽器が次々に掛け合っているような効果を生んでいます。
iTMSでもこの曲はたくさん売られていますが(Mozart+Clarinetとかで検索するとわんさかヒットします)、一楽章だけかるーく試聴してみて耳にとまったのはこれ。バセットクラリネットの第一人者として有名なサビーネ・マイヤーの比較的新しい録音、クラウディオ・アバドwithベルリンフィルとのセッションです。…といっても試聴できる範囲にクラリネットの音は聴くことが出来ず、結局アルバムごと購入となったわけですが・・・(笑)。
サビーネ・マイヤーはたぶん世界一有名な女性クラリネット奏者で、やっぱり何枚かCDは持っているんですが、実はあんまり好きじゃないんです。もちろんテクニックは凄いし、ドイツ人ながらフランス寄りの明るい音色も持ち合わせていて聴きやすい。しかし、ところどころでやや押しつけがましい表現がちょっと気になるのかな。「ココはこう吹くのよっ!」って言われてるような印象がどうしても拭えません。
でもこのモーツァルトのコンチェルトはかなりイイです。まずテンポ設定が速め。この曲に限らずモーツァルトの音楽というのはサラッと演奏するのが美徳、みたいな風潮がありますが、速いテンポというのはそれを具体的に実現しているというか。
それとオケの鳴りですねー。協奏曲のオケっていうとどうしても「伴奏」というイメージが強くて、どこか遠慮しているような居心地の悪さを感じることが多いんですが、本来ソリストとオケとが対等に渡り合ってこその協奏曲だと思うんです。その点この録音のベルリンフィルはとてもよく鳴っていて耳に心地よい。
そしてマイヤーのクラリネット。ちょっと鼻にかかったような甘い音色は管の長いバセットクラリネット特有のもの。この曲が持つ優美な旋律にキレイにハマってます。曇りがちな低音域も実に鮮明。テクニカルな面では細かな連符の描き方、装飾音符の処理の仕方とかがすごく上品で、これぞモーツァルト、という感じですねー。
(※2006/2/1追記)
バセットクラリネットは作曲当初にもあまり一般的なものではなかったらしく、モーツァルトは出版時に手を加えて通常のA管でも演奏できるようにしたそうです。つまり最近聴かれる「原典版」は作曲者本人の草稿や初演時に使用された楽譜から復元したものなんですねー。
どうしてモーツァルトはわざわざこんな特殊な楽器のためにコンチェルトを書いたのか。真意は謎ですが、実際に曲を耳にしてみるとなんとなく「最低音域の4半音の必要性」を感じ取れます。