モーツァルト(その2)。
駅前の書店に1冊だけ転がっていたので思わず買っちゃいました。オイレンブルクのポケットスコアは最近お気に入りです。ちょっと高いけど。
13楽器のためのセレナード "グラン・パルティータ" K.361
Eulenburg / Zen-On - EE7001
数あるモーツァルトの楽曲の中でもかなり謎が多い作品。表題どおり管楽器を主体とした13パートで構成され、7つの楽章からなる。2つのメヌエットはそれぞれ2つのトリオを含み、第6楽章は変奏曲。総演奏時間は50分を超える、管楽セレナードとしてはもっとも大きなものであるにもかかわらず、作曲の経緯がよくわかっていない。「グラン・パルティータ」(大組曲の意)という副題も恐らく後の人がつけたものなのでしょう。
「13楽器のための」とありますが、その内訳はオーボエ2本、クラリネット2本、バセットホルン(※)2本、ホルン4本、ファゴット2本にコントラバス。
いかにもステキな音が聞こえてきそうな編成ですね。ダブルリードの楽器(オーボエとファゴット)が2種それぞれ2本づつ、バセットホルンはクラリネット属であるからシングルリードの楽器も2種2本づつ、4本のホルン(金管楽器)、それとストリングベース。このように同種の楽器をそれぞれ4本づつ配置した、一見奇抜なようで実は極めて整然とした編成なんです。
モーツァルトの管楽アンサンブルのために書かれたセレナード、特にこの作品は響きや考え方といった部分でちょっと吹奏楽に通ずるものがあるようにも思えます。
それぞれの楽器を重ね合わせたり対立させたりして様々な音色を産み出しており、その色彩感豊かな響きがまるで古典作品とは思えないような新鮮さを放っています。
調にB-dur(変ロ長)を選んでいるのもクラリネット属の響きを考慮してのものでしょう。この時代の楽器というのはまだ半音階をちゃんと出せなかったため、シャープやフラットが増えるとどうしても響きの点で劣ってしまうのです。
また、事実上失われてしまった楽器であるバセットホルンが活躍する点も魅力。モーツァルトはこの作品で初めてこの楽器を用いたといわれていいますが、広い音域と独特の響きが存分に活かされています。時には低音楽器として振る舞い、時にはそのちょっと切なげな高音域で旋律を受け持ったり。
バセットホルンは魔笛(K.620)や最後の作品であるレクイエム(K.626)でも用いられていますが、これらの楽曲のバセットホルンパートのほとんどは通常のクラリネットでも演奏可能な音域で書かれているため、残念ながら代用されてしまうことが多く、あの独特のちょっとひなびた音色はなかなか聴くことが出来ません。
管楽アンサンブルのためのセレナードとしては後に書かれたK.375も有名。こちらは8重奏で、5つの楽章からなっています。"グラン・パルティータ"とこのK375はCD等でカップリングされることが多いので同時に耳にする機会が多いと思います。
iTMSでのオススメはコチラ。「指揮者のいないオーケストラ」ことオルフェウス室内管弦楽団の演奏、ドイツグラモフォンの音源です。録音時期が定かではないんですが古い音源なのかな?品質に若干の難アリ。演奏はなかなかいいです。ちゃんとバセットホルンが使われているのもポイント。
※バセットホルンについては以前のエントリでもちょろっと書いたのですが、改めて補足しておきます。
モーツァルトが好んで用いたF調またはG調をとるクラリネット属の楽器で、通常のクラリネットと比較すると低い音域を受け持ち、やや深くもの悲しい音色を特徴としています。もっとも、モーツァルトの時代のそれと現在一般的に用いられているものでは形状や性格が大きく異なっており、現代のもの、例えばビュッフェ・クランポンが開発した楽器はF管で最低音はC(記譜)、他のハーモニークラリネットと同様に金属製のヴォーカルとベルを持ち、アルトクラリネット用のマウスピースで演奏するように設計されています。一方で、同じ現代の楽器でもH.セルマー製のものはビュッフェのものより細管で、通常のBb管用のマウスピースを使用するそうです。
モーツァルトの時代の楽器は上管と下管が「く」の字に接続されたかなり不気味な形状をしており、一度見たら忘れられないインパクトがあります。ヤマハのページに図がありましたので参考にどうぞ。
現代のものはおそらく19世紀にベルギーのアドルフ・サックス(サキソフォンの発明者として有名ですね)によってバスクラリネットや他のハーモニークラリネットと共に開発されたのでしょう。R.シュトラウスが近代オーケストラの中で用いているほか、クラリネットアンサンブルでも最近よく使用されるようになってきました。
左が標準的なA管のクラリネット、真中がモーツァルトのコンチェルトに使用されるバセットクラリネット、右がF管のバセットホルン。いずれもビュッフェ・クランポン製の楽器です。